在学中に身に付けておくべきこと

これまでの経験から,学生が在学中に身に付けておくべき事柄として,以下の4項目を挙げておきたい.

以下,順に見ていこう.

論理的に考える力

自分の頭で考えられること.これが最低限の要求である.あまりに当然のことと思われるかもしれないが,現実の社会では,これができない人達がどれほど多いことか.

大学入学時にピークを迎えると言われる学生の頭脳は,4回生になる頃には思考停止状態に陥っていることも少なくない.生まれて以来の詰め込み教育の弊害なのか,書物(教科書や論文)に書かれていることに疑問を持ったり,反論を試みたりすることがない.十分に納得することもなく,そのままを頭に詰め込み,何を聞かれても,ただ読んだ内容を繰り返す.レポートを書けと言われれば,丸写しする.なるほど,ペーパーテストで高得点を叩き出す術は心得ているわけだ.しかし,そのような姿勢では研究はできないし,研究のネタを見付けることもできない.そのような学生の意識改革を行うためには,徹底的に「なぜ?」という質問を投げかけることが有効である.自分が常識と思っている事柄について,「なぜ?」と聞かれたとき,多くの学生は絶句する.そんなことを考えたことなどなかったからだ.しかし,答えられないということは,理解していないということだ.このようなやりとりを通して,学生は徐々に「理解する」ということの意味を感じていく.大学での卒業研究は,実力を付けるための題材でしかない.徹底的に考え抜く姿勢を身に付けるために卒業研究などに取り組むわけであって,卒業研究の内容自体が重要なのではない.もちろん,卒業研究で世界トップレベルの研究成果を上げられるならば,それに越したことはないが.

「なぜ?」と問いかけることは,物事の本質に迫るために有効な方法である.トヨタ生産方式においても,「なぜを5回繰り返す」ことの重要性が指摘されている.なぜを5回繰り返すことによって,表面的かつ場当たり的な対応ではなく,問題の根本原因を突き止め,その問題を根治することができるからだ.

論理的に考える力は,訓練で身に付けることができる.例えば,論理的に考える力を養うために,数学は非常に優れた対象である.全く何もない状態から出発し,基本的な少数の公理だけを置いて,そこからすべてが導かれる.曖昧さは排除され,正しいことが証明されなければ次へは進めない.我々の研究室では,私が学生になる前から,線形代数を題材としたゼミを行い,論理的に考える力を養成してきた.

自分の考えの前提条件(仮定)を明確にし,その前提をふまえて,考えを進めていく.これができないといけない.前提が曖昧だと,思考も支離滅裂となり,結果も信頼することはできない.もちろん,他人を説得することもできないし,そもそも議論にすらならない.

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「線形代数」のお勧め教科書

研究室で使用している数学ゼミ「線形代数」のテキスト.

大学1回生で線形代数を勉強する際に,その応用についてイメージできていない学生が多いのだが,実は,線形代数は非常に実践的で役に立つ数学である.例えば,様々なデータ解析手法(多変量解析)は線形代数が理解できていれば完璧に理解できる.

本書は応用上特に重要な固有値問題について,詳しく解説している.固有値と固有ベクトルを計算できても無意味であって,それらの意味を理解していないといけない.

手を抜かずに,勉強しよう.

論理的な文章を正しい日本語で書く力

自分の考えや研究成果を伝えるためには,報告書や論文を書かなければならない.自分が報告書や論文を読む立場になったとして,文法が無茶苦茶で誤字脱字だらけのものを,真面目に読む気になるだろうか.支離滅裂で説得力がなく,妄想としか思えないようなものを信じることができるだろうか.人に伝えるためには,論理的な文章を正しい日本語で書く力が不可欠である.

研究室配属された学生には,研究を進める上で必要不可欠な理論を勉強してもらい,そのレポートを提出してもらうことにしている.そのレポートには,支離滅裂な文章が酷い言語で書かかれていることが多い.まさに,読むに耐えない代物なのである.最高学府に在籍する者が書いたとはとても思えない.第一に,論理的でなく,誤魔化していることが明々白々である.試験ならそれでも点数が付くわけだが,研究室では許されない.第二に,正しい日本語の文章になっていない.本当に20年も日本人をやっているのかと疑いたくなるレベルである.恐らく,まともに読書もしていないのだろう.企業で指導的な立場におられる方々の話を伺うと,きちんとレポートを書く力が身に付いていないとダメだと異口同音に言われる.その力を身に付けるためには,ただただ練習するしかない.

論理的な文章を正しい日本語で書く力を学生に身に付けさせるためには,学生の書いたレポートを徹底的に添削するしかないだろう.ところが,この添削作業というのは途方もない重労働である.真剣にやれば,これほど大変な作業もないと思えるほどだ.そうであるから,とりあえず研究を前に進めることが目的であるなら,面倒なレポートの添削などせずに,研究経過が把握できたらそれだけでよしとすれば良い.その方が教員にとっても学生にとっても楽だからだ.それで研究が進まなくなるわけでもなく,特に問題はないように思える.そんな楽な道を選ぶのは容易だ.しかし,それではいけない.学生の将来を考えるならば,教員として人材育成を通して社会に貢献する気持ちがあるのであれば,あえて大変な道を選ぶ必要があるはずだ.こういう地道な活動は,外部評価の評価対象にはならないし,研究費を稼ぐことにもつながらないし,それによって給料があがることも昇進することもないだろう.すぐに結果が見えるものでもない.逆に,添削作業なんてせずに,その時間で自分の論文を書いている方が現行の制度下では高い評価につながるだろう.しかし,だからといって,手を抜いて良い理由にはならないはずだ.大学にいる限りは,この信念を忘れずに活動しようと思う.

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魅力的なプレゼンテーションを行う力

詳細を正確に伝える手段として,報告書や論文は非常に有効である.一方,自分の主張を伝える機会として,学会発表などのプレゼンテーションがある.学会に限らず,現実の社会では,自分の主張を伝えるために,人前で発表する機会は少なくない.そのような機会に,魅力的なプレゼンテーションを行う力が決定的に重要となる.

例えば,研究発表の場合,よく準備された面白い発表と,文字が小さくて読めもしないスライドを用いた退屈な発表のいずれに好印象を抱くだろうか.内容が同じレベルであれば,当然,面白い発表の方が評価される.仮に内容で劣っていたとしても,聞く立場の人達にとっては,やはり面白い発表の方が良い.そもそも,文字が小さくて読めもしないスライドを用いた退屈な発表では,内容を聴衆に伝えることなどできないのだから.

研究室に配属された学生には,できる限り学会発表の機会を与えるようにしている.魅力的なプレゼンテーションを行う力を身に付けるにも,やはり練習しかない.

ただし,注意してもらいたいのは,テクニックに走るな・溺れるなということである.もちろん,綺麗なスライドを作るとか,アニメーションや動画を駆使するとか,そういうことも魅力的なプレゼンテーションの要素ではある.しかし,最も大事なことは,誠心誠意人に伝えようとする態度である.

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話し方を磨くための良書

デール・カーネギーの話し方講座のエッセンスをまとめた書籍です.デール・カーネギーといえば、大ベストセラーとなった「人を動かす」が非常に有名ですが,本書も名著として広く知られています.

この話し方入門には,タイトルの通り,人前で上手に話すための秘訣が書かれています.とは言っても,単なるハウツウではありません.人に伝えたいと切望するものがあること,周到に準備をすること,練習に練習を重ねて,自信を持つこと,始め方と終わり方に注意すること,わかりやすく話すこと,そして,美しい言葉を身に付けることなどが挙げられています.人前で話すことの重要性を認識し,上手に話せるようになりたいと願う人には大いに役立つでしょう.

人前で話すことが仕事である,または仕事の一部であるという方にとっては,必読の書です.

英語力,および世界を意識できる力

国際的に活躍するためには,英語力は不可欠である.日本国内にしか目が行かないなんて,そんな視野の狭いことではいけない.大志を抱け.

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