<最終改訂 2011年8月14日>
学会や講演会で良いプレゼンテーションをするための秘訣(コツ)を紹介します.
卒業論文(特別研究)発表や修士論文発表を目前に控えた大学生や大学院生,初めて学会発表する大学生や大学院生,さらには,十分な修行を積むことなく企業に入り,学会発表をする羽目になった技術者や研究者にも,お役に立てればと思います.
もちろん,初めての発表ではないからと安心してはいられません.プレゼンテーションの機会を活かし,その目的を達成できていますか.自信を持って「当然!」と答えられないなら,もう一度,自分のプレゼンテーションを見直してみる必要がありますね.
学会や講演会での発表には必ず目的があるはずです.まず,目的を明確にして下さい.目的がハッキリしない行為に成功はありません.そもそも,目的が設定されているから成功・不成功を判断できるわけで,明確な目的がなければ,成功も不成功も存在しないのです.
学会発表の場合,自分が提案する理論や方法,実験結果を聴衆に理解してもらい,その意義や重要性を認めてもらうことが目的となるでしょう.その技術を売り込むことが目的かもしれません.そうだとすれば,次の項目についてチェックしておく必要があります.
同じ題目で発表する場合でも,聴衆が異なれば,発表内容を変えなければなりません.誰が相手でも同じことしか話さないというのでは,とても成功は望めません.基礎的な内容を説明すべきかどうか,定理の証明などを事細かに説明すべきかどうか,実験装置や分析機器について説明すべきかどうか,といったことは聴衆の立場で考えなければなりません.決して独り善がりにならないようにしましょう.
発表は魅力的であることが望まれます.自分が「魅力的」と感じる発表をイメージしてみて下さい.発表者はどんな人物ですか.どんな服装で,どんな声で,どんな様子で話していますか.内容はどうでしょう.面白くも何ともないことをダラダラと話してはいませんね.魅力的な発表のイメージをどんどん具体化して下さい.そして,自分を理想に近づけて下さい.発表内容を近づけるだけではありません.自分自身を,自分という人間を,理想に近づけるよう努力しましょう.
イメージする,それもできるだけ具体的にイメージすることは,実はとても重要なのです.これは発表だけではありません.人生においては,イメージしたことが現実になるからです.模範となるプレゼンテーションを積極的に見聞きして,そのような発表をしている自分をイメージして下さい.
発表目的が明確になっていれば,聴衆に伝えたいことも整理されているはずです.あれもこれもと欲張らずに,話したい項目に優先順位を付けましょう.たくさん話せば良いというものではありません.10話して2しか理解してもらえないよりも,5話して4理解してもらった方が良いのです.つまり,話す量を半分に減らして,重要な項目の説明に2倍以上の時間をかける.そういう判断も必要だということです.
もちろん,長く説明したら良く理解してもらえるというものではありませんが,理解するには時間が必要です.時間をかけて説明することは,理解してもらうことの必要条件であって十分条件ではないということです.
まず,あなたが一番伝えたいことは何かを明確にして下さい.ただし,「伝えたい」というのが独り善がりではいけません.例えば,卒業論文発表を控えた学生達を見ていると,自分が頑張ったことを強調する傾向があるようです.仕方ないことなのですが,それではプレゼン素人から抜け出せません.相手に伝えるべきことを強調するのがプレゼンの本質です.それは,相手にとって価値ある情報を伝えるということです.相手が説得される,行動を起こしたくなる,そんな内容を話さなくてはなりません.
さあ,あなたが伝えるべき一番大切なことは何ですか.
発表は物語です.聴衆を惹きつけるストーリーが必要です.論文発表の場合,1)研究の背景と目的,2)従来の取り組み,3)提案する方法・技術,4)有効性の実証,5)まとめ,という順序が一般的でしょう.例えば,いきなり自分が提案する方法の説明をしても,聴衆は「はぁ?何の意味があるの?」と感じてしまいます.
1)世の中にはこういう問題があります.この問題を解決することは非常に重要で社会的に意味があることです.
2)これまでにもこの問題に取り組んだ人達がいますが,こういう点が未解決です.
3)そこで,問題解決のために,こんな方法・技術を提案します.
4)こういう条件の下では,提案する方法・技術はこんな効果があります.凄いでしょ.
このような流れで発表すると,聴衆も違和感なく受け入れることができるでしょう.発表は流れるように.
ストーリーができたとして,もちろん,上記1〜4を同じ程度の力で話すのがベストではありません.聴衆によって,発表の目的によって,何を強調すべきかを適切に判断する必要があります.
聴衆がその分野の専門家だとしたら,研究の背景は簡単に触れておけば十分でしょう.詳しく説明しても,「そんなこと誰でも知ってるぞ.馬鹿にしてるのか?」と思われてしまうだけです.逆に,聴衆が専門外の人達なら,研究の背景や目的こそ強調しなければなりません.その研究の必要性を理解してもらえなかったら,方法や結果を説明することに,何の意味もありません.
ここで再度,プレゼンの目的を見直しましょう.そして,聴衆について確認しておきましょう.目的と聴衆によって,強調すべき部分は変わります.
思い描いたストーリーに沿って,スライドを用意しましょう.いきなり凝ったスライドを作成してはいけません.まずは,頭の中で描いたストーリーをスライドとして具体化し,ストーリーに無理がないか,スライド作成に必要なデータや情報が揃っているかを確認します.
スライド作成については,「学会発表に関するアドバイス(スライド作成編)」を参考にして下さい.
思い描いたストーリーに沿って,適切な分量で,説得力のある発表原稿を用意しましょう.この作業を疎かにしてしまうと,聴衆から誉めてもらえるような良い発表などできません.
自分では内容を完璧に理解していて,スラスラと発表できるつもりでいても,いざ文章にまとめようと思うと,全然文章にならないことがあるものです.そんなとき,もし原稿を用意していなかったら,見苦しい発表になるのは当然でしょう.そんな愚を犯してはいけません.
素晴らしいプレゼンテーションを行うためには,内容が優れていることは当然必要なのですが,それと同時に,良いスライドと良い原稿が不可欠です.
原稿を作成していると,スライドを修正したくなります.こんな説明の方が良いのではないか,こんな図を使った方が理解してもらいやすいのではないか,そんなアイディアが次々と浮かんできます.原稿を作成しない人には,そういうチャンスは訪れません.日本語での短い発表であっても,必ず,原稿は作成しましょう.手を抜けば,そこであなたの成長は終わりです.
素晴らしいプレゼンテーションを行うために,何度も発表練習を繰り返しましょう.そして,何度もスライドと原稿を推敲しましょう.
学会発表に慣れてくると,この作業を怠る人が多くなります.特に母国語での発表であれば,「なんとかなるさ」という根拠のない自信に溺れてしまいがちです.確かになんとかなるのですが,それは発表が終わるという以上の意味ではありません.いかに見苦しい発表をしたとしても,なんとかなったと言い逃れすることはできます.しかし,皆さんは,そんなレベルで満足してしまわないで下さい.
ちなみに,研究室の学生には次のように言っています.
「スライドと原稿を完成させて,原稿を頭に叩き込んだ状態になったとして,プレゼンに絶大な自信を持っているなら,10回以上練習すれば良いだろう.自信がないなら,最低50回は練習しろ.下手な奴が根拠のない自信を持ち,自己満足してしまうのが最悪のケースだ.そうなると,一生プレゼンが下手なままになる.気を付けろ.手を抜くな.」
修正に修正を重ねて,やっとの思いで完成させる原稿ですが,発表本番では使いません.どうしても覚えられなかったら仕方ないのですが,原稿を見ながら発表するのは邪道です.
学会での研究発表でも,修士論文や卒業論文の発表でも,自分で研究したことを自分の言葉で語れないというのは奇妙です.本当にお前がやったのか?という疑問を聴衆が抱いても不思議ではありません.しかも,母国語での発表にもかかわらず,原稿を見るようでは,プレゼンテーション能力の欠如をアピールしているようなものです.
ただし,原稿通りに一字一句間違えずに発表する必要はありません.発表で大切なのは,言うべき内容を言うことです.その目的が達成できるのであれば,細部の言い回しが多少違っても気にする必要はありません.とにかく,練習しましょう.発表がうまくなるには,練習しかありません.
どうしても原稿を覚えられないという人は,手に持つ原稿を工夫しましょう.発表中に避けるべき事態は,自分が原稿のどの部分を読んでいるのか分からなくなってしまうことです.大勢の聴衆の前で,沈黙して現在位置を必死に探す行為は,大変な精神的苦痛を伴います.そのような事態に陥らないために,1)スライド毎に原稿を用意する,2)キーワードを目立たせるなど,自分なりの工夫をしてみて下さい.
さて,ここから発表本番です.
まず,見苦しくない服装で発表に臨んで下さい.ドレスコードの有無はケースバイケースですが,学会発表であれば,ジャケットにネクタイが基本でしょう.「他の学生はカジュアルな服装ですよ」と言いたい人がいるようですが,それがどうかしましたか.アドバイスを聞く気がないなら,勝手にすればいいでしょう.最初に書いたとおり,どのような発表にも目的があるはずです.その目的を達成するために最も適した服装をするのです.
発表中は,背筋を伸ばして,ピシッと立ちましょう.フニャフニャしているのは見苦しいですし,ポケットに手を突っこむなど言語道断です. えっ,どっちを向いて立っているのですか.発表は聴衆を向いてするものです.
発表本番は大変緊張するので,どうしても早口になりがちです.練習の時から,ゆっくりと大きな声で話すように心掛けて下さい.聴衆に理解してもらえなければ,その発表は無意味です.理解してもらうためには,見易いスライドを用いて,懇切丁寧に説明するしかありません.ボソボソと呟くなんて論外です.学会発表で呟いている研究者もいますが,ハッキリ言わせてもらうと,最悪です.
重要なことなので繰り返しますが,ゆっくりと大きな声で話して下さい.
ゆっくりと大きな声で話せるようになったら,単調な発表にならないように注意してみましょう.発表の間ずーっと同じ調子で話されると,聞いている方は,どこが重要なのか分からず,眠くなってしまいます.どうしても伝えたい重要な部分はしっかり強調しましょう.より大きな声で話しても良いですし,その前後で間を取るのも良いでしょう.
原稿を見るなと私が主張する理由の1つは,スライドを活用できなくなるからです.原稿に目がいくと,どうしてもポインターを適切に使えなくなります.原稿とスライドを同時に見ることは不可能ですから,原稿を見なくても済むように準備しておくべきです.原稿を見るにしても,見ないにしても,しっかり練習して,適切なタイミングで,適切な場所を指せるようにして下さい.
ポインターは使い続けるものではありません.図や表で注目して欲しい箇所を指し示すのに活用しますが,いつもスクリーンをビーム攻撃している必要はないのです.というか,そんなことをしてはいけません.プレゼンテーションで大切なのは,聴衆に向かって話すことです.ポインターを使うのは,必要なときのみです.
たまにポインターを振り回す人を見かけますが,最悪です.また,スライド中の文章を読む際に,ポインターで文章を追う人がいますが,そんなことをする必要はありません.目障りなので,どの項目を読んでいるかを指し示すだけにして下さい.
上記のアドバイスに従って発表できるようになると,次の課題は聴衆を見ながら話すことです.いわゆる,アイコンタクトと言われるものです.会場に来てくれた一人一人の顔を順番に見回すぐらいの余裕を持って発表ができるようになりましょう.そこまでできなくても,最低限,聴衆の方を向いて発表しなければなりません.決して,スクリーンに向かって黙々と話し続けてはいけません.そんな先生がいませんでしたか,自分が講義を受けているときに...
とにかく,体の正面を聴衆に向けて話しましょう.スクリーンに向かって話してはいけません.
学会発表や講演の持ち時間は事前に決まっているはずです.例えば,学会発表の場合,発表時間15分と質疑応答時間5分の合計20分というように決められています.指定された発表時間は厳守して下さい.ルールを守るというのは,発表の善し悪し以前に,最低限の条件です.発表原稿を用意しない人は,時間配分に計画性がなく,発表時間を守れない傾向があります.このため,くだらない前置きをダラダラと話し,肝心な部分についてはサッと流すという本末転倒な発表になってしまいます.このような愚を犯してはいけません.
学会などでは,自分が発表するセッションの開始に先立ち,プレゼンテーション用ファイルを会場に備え付けられたコンピュータにアップロードするように指示されたりします.こういう指示にも確実に従いましょう.社会人としての最低限のマナーです.
質問されると,質問者が質問している最中なのに,質問の内容も完全には解らない段階なのに,必死でスライドを探す人がいます.一体何をしているのでしょうか.質問されているときは質問に集中しましょう.質問が終わったら,どのように答えるのが最も良いか判断しましょう.スライドを使うと非常に分かり易く答えられる場合もあるでしょう.しかし,スライドがなくても答えられる質問も多いはずです.そんな時に,必死にスライドを探していると,内容を理解できていないのがバレバレです.聴衆もガッカリしていまいます.気を付けましょう.
質問は最後まで聞きましょう.途中で質問を遮ったりしてはいけません.
質問にはダイレクトに答えましょう.「はい」か「いいえ」で答えれば済むものは,それで十分です.補足したいのなら,「はい」か「いいえ」で答えた後に補足説明をすればよいのです.
答えるときに,フェードアウトしてはいけません.質問に答えるときには,最後の「です/ます」までハッキリと口にしましょう.これは発表でも同じです.
質問に的確に答えることは極めて重要です.これに失敗すると,ダメな奴というレッテルを貼られてしまいます.一度貼られてしまったレッテルを剥がすのは極めて困難です.人生なんて,そうそうやり直しのきくものではありません.質問されたときに,何を聞かれているのかを,質問の本質を,瞬時に理解しなくてはなりません.そのためには,発表内容を完全に理解している必要があります.もし質問の内容がハッキリしないなら,質問者に質問内容を確認しましょう.「あなたの質問は○○という意味ですか?」と尋ねることは,決して失礼な行為でも恥ずべき行為でもありません.質問を聞き返すのが問題なのではなく,見当違いな回答をすることが問題なのです.
また,質問の中には頓珍漢な質問もあるものです.そのような場合,質問者を責めるような応答は控えて,易しい言葉で正しい方向へ導いてあげましょう.あなたの発表に関しては,あなたが世界一の権威なのですから,ゆとりを持って対応すれば良いのです.なお,質問を受けそうな内容が予測できている場合には,質問対策用のスライドを用意しておくと良いでしょう.
質問を聞き返してもよいと書きましたが,質問が意味不明のときには,「は?アホですか?」という態度ではなく,「もう一度お願いします」や「○○ということでしょうか」と丁寧に対応します.紳士淑女であるように心掛けましょう.
答える際に,「さっき言いましたが」みたいな前置きは不要です.説明が意味不明だから質問が来るのだと考えましょう.何でも他人の責任にしていると全く自分の力がつきません.
「え〜」,「あの〜」など,無意味で耳障りな言葉.通常,話している本人だけが気付いていないので,要注意.
グリーン・レーザーポインタ
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学会発表についてのハウツウ本は,世の中にいくらでもあるでしょう.しかし,単に小手先のテクニックを知りたいのでなく,人前で話すための心構えを理解し,素晴らしい話し手になりたいと願うのであれば,デール・カーネギーの「話し方入門」を読んで下さい.学会発表だけでなく,人生のあらゆる場面において,人に話をするときに,必ずや役に立つことでしょう.
話し方入門 著者: Dale Carnegie 偉大なる投資家ウォーレン・バフェットも受講したという,デール・カーネギーの話し方講座のエッセンスをまとめた書籍です.デール・カーネギーといえば、大ベストセラーとなった「人を動かす」が非常に有名ですが,本書も名著として広く知られています. この話し方入門には,タイトルの通り,人前で上手に話すための秘訣が書かれています.とは言っても,単なるハウツウではありません.人に伝えたいと切望するものがあること,周到に準備をすること,練習に練習を重ねて,自信を持つこと,始め方と終わり方に注意すること,わかりやすく話すこと,そして,美しい言葉を身に付けることなどが挙げられています.人前で話すことの重要性を認識し,上手に話せるようになりたいと願う人には大いに役立つでしょう. 人前で話すことが仕事である,または仕事の一部であるという方にとっては,必読の書です. |
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スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則 著者: カーマイン・ガロ アップルのファンを熱狂させるのみならず,プレゼンの手本として絶賛されるスティーブ・ジョブズのプレゼンを分析し,その成功の秘訣をわかりやすく解説しています.ここで推奨されているプレゼンと自分のプレゼンを比較すれば,何が問題かを認識できるでしょう. 本書で強調されている点は次の3点です.第1に,プレゼンで伝えようとするモノに情熱を持つこと.第2に,聞き手が興味あることを,わかるように伝えること.第3に,練習し,練習し,そして練習すること. 本書は,プレゼン能力を高めたいあなたの役に立つはずです. |
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マッキンゼー流 プレゼンテーションの技術 著者: ジーン・ゼラズニー 研究発表向けの書籍ではないですが,ビジネスでプレゼンする機会が多い,ビジネスにおけるプレゼン能力を磨きたい,というのであれば,ジーン・ゼラズニーの「マッキンゼー流 プレゼンテーションの技術」が良いでしょう. 目的を達成するために,プレゼンテーションに不可欠な要素は何かということが書かれていますので,もちろん研究発表にも役立ちます. |